■ DIRES -giger loop- ■

Last update : '05/06/14

タイトル画面

○キャッチコピーは"21世紀のチェス"!

 (株)BOTHTEC による1987年作品。DIRES とは Digital Image Real-time Energy Simulation の略だそうな。
 PC-88VA、FM77AV、MSX2版なども発売されていたようですが、今回は1991年に出たPC-9801用廉価版 (SOFBOX版) をベースに紹介します。
 上下が繋がった円筒状のフィールドを乗り物に乗って駆け回る、一見レースゲームのような画面と操作感の対戦アクション。
 しかし必要なのは反射神経ではありません。これは何よりも記憶力、空間把握力、そして定石がものを言うゲームなのです。

○概要 - すべて取れば勝ち、の単純ルール

スクリーンショット1 (クリックで拡大)
練習モード。左上に見えるのは敵機

 タイトルデモが終わるといきなりプレイ画面。
 マーク・フリントZONE を思わせる疑似3D描画でゲームは進行します。

 ルールはいたってシンプル。まずはフィールド上を移動しながら各々16本のポールを配置してまわります。
 そして両者とも配置が終われば準備時間終了、そのまま本番開始。今度は相手のポールをひたすら取ります。速度をつけてぶつかると取れます。先に16本すべて取り尽くした方が勝者となります。

 これだけ。
 アイテムだの攻撃だのと言ったややこしい要素は一切ありません。前半はただ黙々とポールを置き、後半で黙々と取り続けるだけのゲームなのです。
 すなわち、すべての駆け引きは「いかに置くか?」と「いかに取るか?」の二点に集約されます。

○戦術 - やみくもに走るだけでは勝てない

図1
図1

 ちょっと一例を挙げてみましょう。
 左の画面でを取ったら、次はどう行動すべきでしょうか?ついを取りたくなりませんか?
 しかしそれではいけません。実はこれは判断ミスを誘うための定番配置。ポールを取った衝撃で速度が下がるので、そのままに向かうと勢いが足りずポヨーンと跳ね返されてしまいます。
 ここは慌てずと取るのが定石。そして周囲に他のポールがなければバックしてを取ります。状況によっては後回しも手。
 フィールドがきっちりマス目で区切られているため、取る順番もさながら碁石拾いのように理詰めで決めていけるわけです。

 フィールドの広さは 80x8。ただし縦は (ぎゅうぎゅうに詰めたらゲームにならないので) 4マス毎にしかポールを置けません。よって実質 20x8 と考えることができます。
 狭いようでいて意外に広いので、作戦を決めるためには事前偵察も重要。すばやく自分のポール配置を済ませて余った時間で偵察したり、逆にわざとゆっくり配置しながら相手の出方を確かめたり…。準備時間から既に駆け引きは始まっています。

○AI - 個性を持ち、成長するコンピュータ

スクリーンショット2 (クリックで拡大)
試合モード。AI同士の試合を観戦中

 対人戦のみならず対コンピュータ戦も奥深いのが本作。
 自由対戦を行う「練習モード」とは別にトーナメント形式の「試合モード」が用意されており、シングルプレイでも十二分に楽しむことができます。

 相手となる総勢22名の"トルーパー"達にはすべて名前がつけられており、性格も得意戦法も様々。そればかりか彼等は試合のたびに学習して強くなるという触れ込みつきです。
 ちなみに上位ランカーのみではありますが設定まで用意されています。ちょっと引用してみましょう。

■EVA C  28歳(女)
サイコキネシスト。幼少の頃から、イギリスの「ジョルジュ・デュマ超能力研究所」でさまざまな実験、研究が行われ、不完全ながらも超能力者として覚醒する。ポールを取るテクニックには、その力が顕著に表れている。
■SYANBALA  18歳(男)
誕生直後、自ら七歩あゆみ「天上天下唯我独尊 (あめがうえ、あめがした、われにまさるほとけなし) 」と声高らかに降誕宣言をしたという。このため「釈迦」の再来といわれ、あがめ奉られる。僧侶。

 このゲームに普通の人はいません。

スクリーンショット3 (クリックで拡大)
シミュラを教育中…

 もっとも本戦ではそう何度も同じ相手と戦ったりはしませんから、成長といってもなかなか実感できないのが実情。
 そんな貴方のために用意されているのが、一定ランクに達するともらえるAIの卵「シミュラ」です。

 初期状態のシミュラは「ポールを置いて取る」という基本動作以外は何も設定されていない、まっさらなAI。当然勝負してもまともなゲームにはなりません。
 しかしそれゆえに、見たものをなんでも吸収して行きます。人間が根気強く教え込むもよし、適当なトルーパーと戦わせて横からぼーっと眺めているもよし。
 はじめは完封負けばかりだったシミュラが次第に「戦術」を覚えて手強くなっていく様は感動。さながら育成ゲームのような遊び方ができちゃうわけです。

 本戦ではプレイヤーの替え玉としてシミュラを出場させることもできるので、苦手なトルーパーを自分の代わりに倒してもらう…ということもできます。うまくいくかどうかは貴方の普段の教育しだい。

○総評

 地味です。
 疑似3Dといっても当時すでに珍しい技術ではなくなっていましたし、ゲーム画面に至っては最初から最後まで変化がありません (メニューすら無い!) 。
 初速が遅かったりポール取るたびに減速したりする自機の特性上、爽快感もいまひとつ。
 どう考えても売れなさそうな作品です。実際売れなかったみたいです。
 しかし無駄をそぎ落とし、純粋にアイデアとゲーム性だけで勝負しようとする潔さには好感。AIの完成度の高さともあいまって、確かな印象の残る作品です。きらびやかな大作ではないけれど、時々引っ張り出したくなる独特の味わいがあります。

 あえてゲーム上の不満を挙げれば、戦術よりも記憶力の占めるウェイトの方が大きく感じる点でしょうか。残り数個のポールを求めて何もない空間をうろうろ…といった局面がしばしば発生してしまいます。もっともこれは私が下手なだけかもしれませんが…。
 それと、せっかくシミュラの教育ができるのですから、データを持ち寄って「シミュラ vs シミュラ」ができるとより良かった。どうやら他機種版にはこの機能があったという話ですが、9801版に無いのが惜しまれます。

 なお、MSX2版は現在でも 『MSX MAGAZINE 永久保存版 2』 で遊ぶことができます。